昨年開催した講演会が大好評! 今回は講演会の後半を抜粋してお届け致します。前編はこちらから

講師:医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長 佐々木 淳 医師

 

高齢者はなぜ栄養不足になりやすいのか?

在宅医療の栄養士さんは食べ物「食べるな」とは言いません。 おばあちゃん食事が足りない、もっと食べてって。なぜか? みなさん栄養が足りないんですよ。 お家にいらっしゃる高齢者、これは厚生労働省、栄養状態が良好なのは3人に1人しかいません。 三分の一が栄養状態が悪くて、三分の一がそのリスクが高い状態という、予備軍ですね。

栄養不足がもたらす深刻な問題

在宅医療とか介護受けている人は、栄養状態良好なのは11パーセントだけ。 2人に1人は、栄養状態が悪い。栄養が足りないと何が起こるか。 筋肉が減ります。筋肉量が減ることをサルコペニアといいます。 これみなさん覚えていってください。 サルコペニアが進行すると、日常生活、動けなくなりますね。これをフレイルと言います。 ドアを開けられないとか、信号が青の間に渡れないとか。外出が億劫になっていくことをフレイルと言います。 ひとことでいうと、お家で過ごしている高齢者の多くが、栄養状態が悪くて筋肉が弱っています。 さっき私、肺炎と骨折でみなさん入院するんですよ、という話をしました。 肺炎と骨折で入院した人たちの栄養状態どうだったか。肺炎で入院した方は、100パーセント栄養状態悪い。 サルコペニアの人が多いですね。フレイル、多いですね。骨折で入院した人は96パーセント栄養状態悪い。 肺炎と骨折というのは、違う病気のように見えますけど、両方とも栄養が悪くて筋肉が弱っている。 みなさんは元気に見えますよ、一見元気に見えますけど、もしかすると何かが始まっているかもしれません。 最初に始まるのは、食事の量の変化です。 必要なカロリーが足りないと、私たちは自分の体を分解して、足りない分を補います。 そして、筋肉が落ちる。筋肉が落ちると、運動機能が低下する。そうすると動くのが億劫になる、さらに食欲が低下する。 この循環を、フレイルサイクルと言いいます。栄養が悪くなると抵抗力が落ちますね。 筋肉が落ちると、飲んだり食べたり話したりする力も落ちます。そうすると、誤嚥が起こりやすい。 ベットにいる時間が多くなると、床ずれが起きたり尿路感染が起きたり それによって、認知症の進行が進んだりします。

高齢者が適切な栄養摂取をするために

なんとなくみんな違う病気のように見えますけど、根本は同じです。 なにかというと、食事から始まる栄養不足です。 ではどれくらい食べたらいいのかというと、結構スマートな方が多いですね、 スマートな方はいいんですよ、若いうちは。歳をとると、痩せてる方は危ないんですよ。 私たちは身長と体重をBMIという数字を計算します。 22が標準。18.5から下は痩せ。25超えると肥満です。 18.5から22の間で、22に近づけましょう、と私たちは指導しています。 だけどこれはね、若い人の話。 65歳以上の高齢者は、22より痩せていくと死亡のリスクはどんどん上がっていきます。 女の人の場合は、16を下回ると死亡のリスクは2.6倍です。 標準体型よりも2割くらい痩せています、スマートです、というのは若いうちはモテていいですよ、だけど歳を取ったら大変です。 では太るとどうなるか。若い人は死亡のリスクが上がるんですよ。でも、歳をとると死なないんです。 男性の場合、もっとも死亡のリスクが少ないのは、BMIが25から27.9。 なんとなくこうね、スマートにしている方が活動的でカッコよく見えるんですよ。それは、若いうちで卒業してください。 65、75、85、ちょっとづつ体重を増やしていく。これが、安全な年の取り方です。 これは茨城県の研究なんですが、年代別にもっとも長生きできるBMI。 40代、50代は男性は23.6、女性は21.6。 だいたい標準と言われている値、これくらいでいいのかもしれません。 60代になると男性は26、肥満ですよ。女性は25に近づきます。 日本以外の長寿王国、香港とかイタリア。 歳を取ればとるほど、肥満の人の割合は増えていきます。だけど日本はね、痩せていく人が増えていくんですよ いわゆる標準体型の人は、35パーセントしかいません。平均BMIが18.1、シニア世代の高齢者の6割が、これより痩せているんですね。 さっき、死亡のリスクが増える10度の低体重の人が、なんと3割もいます。 この人たちに必要なのは、薬ですか?おにぎりですか? しっかり食べて、体重増やしてもらった方が長生きできます。 っていう話をするとね、痩せている人からこういう反論が出るんですよ。 私こんなに痩せているけど、いつ死ぬんですか?、と(笑)

健康寿命を長くする秘訣

これは実は、身体的、精神的に大きなストレスがかかった時に死にやすいということがわかっています。 たとえば、入院。これはアメリカのデータです。 高齢者が入院しました。入院した後どれくらい生きているのか。 栄養状態が良好だった人がグリーン、悪かった人が赤、中位の人がオレンジと 3グループに分けて入院の後どれくらい生きているか調べた。 入院の時ぽっちゃりしていた高齢者は、3年後8割生きていた。 入院していた時痩せていた高齢者は入院して、3ヶ月後に2人に1人は死亡。3年に生きられる人は5人に1人。 3年後の生存率が体重だけで違うんですよ。 こういうデータを見ていると、痩せている人はがんが多いんじゃないの?と思いがちですが、 年齢と性別と症状も調整してあります。がんの人も同じくらいじゃないと。 純粋に栄養状態がいいか悪いかで身体的にストレスがかかるとこれだけ違う。 精神的なストレスもそう。 おじいちゃんおばあちゃん、2人暮らし。おばあちゃんが亡くなりました。 おじいちゃんが痩せていると、たいてい3ヶ月以内に亡くなります。 やっぱり落ち込んで食べられなくなると、生命力が落ちるんですね。 だけど、蓄えがあると、復活の期間までなんとか持ち堪えられる。 私は痩せている患者さんたちには、今は元気でいられているけど、 何か起こった時にちょっと心配だから、命の貯金だと思って、ちょっとづつ体重増やしていこうね、と。そうするとリスクが下がる。 私たちが研究してきた医療とか健康管理というのは、私たちの健康寿命を伸ばすというのが目的でした。 私たちは健康寿命を長くしたい。脳梗塞、心筋梗塞、がん。がんで大切なのは、早期発見早期治療。 心筋梗塞、脳梗塞は血管が詰まる病気ですから、動脈硬化ということです。 つまり、食べ過ぎ、太らない、血圧血糖値さげて薬ちゃんと飲んで。 みなさんが長年やってきたのは長生きさせるための医療です。 だけど、どんなに頑張っても、歳を取っていきます。 歳を取ってヨタヨタしてきたら、何が起こるか。 栄養状態が悪くなって、筋肉が減って、そして肺炎と骨折を起こすことになります。 だからヨタヨタしてきた人の大事なことは、体重を増やす。お酒タバコはどうでもいいです。 コレステロールは下げない方がいいですよ。みてください、真逆ですよ。 元気な人はオレンジ、ヨタヨタしてきたら緑。切り替えが大事です。 みなさん「私はまだヨタヨタしてない」て言いますけど、ヨタヨタしてますよ(笑)

人生の最終段階における「看取り」とは?

ちょっと若い頃と同じように行かなくなってきたなと思ったら、体重だけは減りすぎないようにする。 元気に動ければ、筋肉をつけることができる。筋肉は貯金できます。 どれくらい筋肉、体重を貯金できているかが、入院した時に、死なないかということに関わってきます。 とにもかくにも、私たちの人生はさらに進んでいきます。そして、終末期です。 終末期というのは、どんなにお医者さんが頑張っても、みなさんがどんなに治療をしても寿命はそんなに変わりません。 だからこそ、みなさんの生命力が最大限発揮できる環境であることがとても大切です。 からだの病気だけをみるんじゃなくて、よりよく生きることをサポートする。これを看取りと言いいます。 なんとなく見取っていうとね、 お家で心臓が止まるのをお医者さんが確認して、死亡診断書を書いてもらうことだと思っている方が多いかと思いますが、 看取りというのは、これから先の人生がみえたというときに、 「人生を自分らしく、医療に支配されずに自分の力で生きていくこと」を そして、それをサポートすることを看取りと言います。 終末期とか看取り、というと聞こえが悪いので、最近は人生の最終段階とか、 これも聞こえが悪いですね(笑)

人生会議の重要性

僕は患者さんには人生の下山と言ってます。 みなさん、まだ山を登っている方もいるかもしれませんけど、 人の人生は重荷を負うて遠き道をいくが如しと家康は言っていましたが、山を登っていく。 だけど、人生にはピークがあります。そこで一番いい景色を楽しんで、そこから私たちは降っていきます。 上り坂の時は、目の前が上り坂しか見えないけど、下り坂の時っていうのは、実は坂は下に広がるので、景色が見えるんですよね。 みなさんは、若い時のような元気さはないけど、人生は今の方が楽しんでるかもしれない。 景色はいいですよね。景色を楽しみながら、山を降りていくんですよ。 下り切ると、みなさん死んでしまいます。 人生の山の登り方、どうやって山を登るか、という指南書はありますけど、 どうやって山を下るか、の指南書はないですよね。 亡くなったら喋れなくなっちゃっているから(笑) だから私たちは、みなさんの人生に伴走するんですけど。 大事なことはですね、山登ったことのある方は多いと思うんですよ、 5合目、7合目、目安があるからペースの配分もできるし、 花を見たい人はこちら、と。選択がありますよね。 人生も選択があります。最後の最後まで選択があります。 残された時間3ヶ月、1年というと、なんとなく死ぬのを待つだけ、と思う方も多いと思うのですが、 この時期、どう過ごすかは自由です。選択があるんだ、ということを知って欲しいんですね。 このなかで、自分にとって最適なルートはどれなのか。 そこに行くためには何が必要か、そこに行くと、何が起こる可能性があるか。 それが起こったらどうするか、どんな選択があるのか。 今のうちから準備しておくことがあるか。 誰に最後まで一緒にいて欲しいか。 そんなことを話しながら、私たちと一緒に考えます。 こういうことを話しながら、最後はこれをしたいんだなとか、死ぬまでにあれをやりたいんだな、とか 今はこれを禁止されているけど、やれたらやりたいと思っているんだな、とか そういうことをキャッチしながら、それができるようにサポートをしていきます。 日々の対話を通じて、患者さんたちの価値観や人生観をしっかり聞いて、 最後の最後までちゃんと治療して欲しい人、今できたら苦痛は少なくして自由に暮らしたい人 それに応じて医療を調整していきます。こういう話し合いのことを、人生会議って言うんですね。 皆さん自身がどんな人生を生きたいかって、心の中に思っていても、 いざその時に、思いを伝えられない可能性がありますね。 延命治療が嫌だと思っていても、お子さんが点滴を希望する、ということもある。 自身がどうしてほしいか、ということを周囲の人に伝えておくことが大事です。 だけど何かあった時に私に治療しないで、とはなかなか言いにくいと思うんですよね。 だからこそ日頃から話し合いながら、お母さんこう言う人だったよね、と理解してもらって こういう状況だったら、点滴なんてしてほしくないだろうね、と思ってもらえることが非常に大事です。 紙に書いておくって言う方もいるんですよ。 紙に書いておくのもいいんですけど、紙に書いてないことが起こったらどうしたらいい? 結局わからない。 こういう風に死ぬってわかっていたら、こういう風にしてって書けますけど、予期せぬことは起こりますから。 それが起こった時に、紙だけだと心配なんで。大事なことはやっぱり、日頃から話し合って、人となりを理解してもらう。 息子さんが遠くにいてなかなか話できないっていうんであれば、他の方でもいいんですよ。 主治医の先生でもいいですし。たくさん話をして、私という人を知っている人をまわりに、増やしていく。 そうしたら、みなさんも安心して過ごすことができる。